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つくば座・もりや座

展覧会・イベント

 「だいちの星座」の活動は実施するそれぞれの町で新たなチャレンジをしてきました。茨城県つくば市守谷市での活動では「だいちの星座」として初めて参加者自らが活動にエントリーし、さらに参加者自らが電波反射器を作りその配置場所の決定もエントリーしたグループ単位で決定しています。2月21日(つくば市)、3月7日(守谷市)にそれぞれ実施された人工衛星からの撮像にはこれまで実施された「だいちの星座」の中で最も多くの参加者が集まり、両市の参加グループの合計も20チームとなりました。当日はあいにくの天候でしたが、電波を利用することで曇天下の観測が可能な「だいち2号」の働きと正確な地上の活動の実施により「つくば座」「もりや座」の2作品が無事完成しました。2つの作品は2015年4月18日〜5月23日にはアーカススタジオ(茨城県守谷市)を会場に、「だいちの星座プロジェクト -つくば座・もりや座- ドキュメント展」(主催:アーカスプロジェクト実行委員会、共催:金沢美術工芸大学、宇宙航空研究開発センター)にて発表され、同年8月にアートスペースキムラASK?(東京)、翌年9月にはソウル市のギャラリーSpace9(韓国)などでも展示されています。

 「つくば座・もりや座」はその後実施された「だいちの星座」の活動に大きな影響を与えています。参加希望者を募るエントリー方式は「かがやき星団」「いばらきけんぽく座」「よっかいち座」でも採用されました。参加希望者自らが電波反射器を作り、それらの電波反射器を自分の手で配置し撮像に臨むことが、「だいちの星座」の活動が新たな社会認識のツールとして機能した実感を獲得する支えとなっています。多数の参加者が活動を理解しつつ安全且つ円滑にプログラムに参加できた理由は、アーカスプロジェクトスタッフによる完璧なオーガナイズにあると言えます。特に企画者である石井瑞穂コーディネーターの熱意が「つくば座・もりや座」を後押しし「だいちの星座」を急激に成長させたことは間違いありません。レクチャーやワークショップの実施体制、エントリー受付と参加者への連絡、記録、広報に至るまで、様々な課題を解決していったことで、「つくば座・もりや座」は「だいちの星座」実施形態の原型となりました。

 

 「つくば座・もりや座」アーカスプロジェクトWEBサイト

<参加者募集>
http://www.arcus-project.com/jp/event/2014/ev_jp141219102823.html 

<ドキュメント展>
http://www.arcus-project.com/jp/event/2015/ev_jp150407123121.html

 

 

 

 

 

 

 

写真としての「だいちの星座」

作品コンセプト

 写真の定義に光とレンズが不可欠だということであれば「だいちの星座」は写真ではありません。しかし、少なくとも何らかの電磁波が関係し、ある像を持続させているものを広義の写真と呼ぶのであれば、Lバンドの電波を利用したレーダによって撮像された人工衛星画像を元に制作された「だいちの星座」は写真である可能性があります。 

 「だいちの星座」を制作する元となる写真、即ち「だいち2号」の観測画像の著作者は宇宙航空研究開発機構です。「だいち2号」の画像が公開される場合「©JAXA」が表記されます。観測データはJAXAのデータベースで保管・管理され、解析された画像はプロダクトとしてシーンIDや撮像時刻・エリアなど様々な条件を指定することで検索することが可能で、有償または無償で利用可能なものが少なくありません。

 「だいちの星座」の活動では「だいち2号」に自らが制作した電波反射器を観測させますが、成功すればこの衛星画像にはそのときに描いた「だいちの星座」を構成する〈1等星〉が、JAXAによって恒久的にアーカイヴされることを意味しています。

 写真として見た「だいちの星座」について考えるために、「だいちの星座」の制作を雑誌の編集過程に例えてみましょう。その雑誌にはある町で活躍する人を紹介するページがあるとします。この例え話の最後に出来上がる雑誌全体が「だいちの星座」であり、各ページが「たねがしま座」「つくば座・もりや座」「いばらきけんぽく座」等と考えてください。

 「だいちの星座」の作者である鈴木は、この例え話の中で、カメラの持ち主でもなければシャッターを押す人でもありません。強いて言えば、活躍する人のポートレート撮影を依頼した雑誌の編集者でしょうか。モデルを依頼して、カメラマンに写真を撮ってもらいます。私は写真を焼くためのネガを持っていません。著作者であるカメラマンのJAXAにネガを現像してもらい、掲載する像の元となる写真を届けてもらいます。JAXAのスタジオには「だいちの星座」の作者である大木さんが働いていて、後に編集がし易いように写真を整理してくれています。「だいちの星座」の編集室では大木さんが整理した写真をもとに、モデルさんの活躍する姿を強調したり、必要の無い背景を切り取って見えなくしたりします。町で活躍するモデルさんについて取材した日の様子や、モデルさんと関わる周囲の人々の様子などを文章や地図、小さな写真やインタビューにまとめと同じページに掲載します。

 以上の例え話では、町で活躍するモデルさんは電波反射器のことで、編集者が鈴木、大木さんは写真スタジオで働く人として登場してもらいました。だいちの星座の参加者は差詰め電波反射器さんを育てたり、その周辺で電波反射器をよく知る人達としてインタビューや写真で紹介されている様子を想像してみてください。

 「だいちの星座」は、電波反射器を通じて町の様子を伝えるポートレートのように機能する写真なのではないかと考えています。

 因みに、アクリルマウントされた「だいちの星座」作品は写真スタジオにて印画紙出力されていて、プリンター出力よりも彩度が高く黒も深く仕上げていただいてます。

人間リフレクタ

電波反射器・CR

 

 あなたが「だいちの星座」に参加して<人間リフレクタ>となれば、「だいち2号」が人一人を宇宙から観測し、地上絵にその存在が刻まれるかもしれません。

 ある対象に電波が当たり、その入射角に向けて戻る波を後方散乱と呼びます。電波を利用した地球観測の分野では後方散乱が大きい特性を持った形が知られており、例えば、大きな球、円板、長方形板、円柱、方形三面コーナリフレクタ(「だいちの星座」で作られてきた電波反射器)、三角三面コーナリフレクタ、二面コーナリフレクタ、があります。

『レーダポーラリメトリの基礎と応用―偏波を用いたレーダリモートセンシング』/山口 芳雄/p.49

 人間リフレクタとは、アルミ蒸着シート(またはアルミ箔)を使い、人がそれを纏ったり手で持ったりして形を固定することで、特殊な器具を使わずに人そのものが電波反射器となって大きな後方散乱を作り出そうとする試みです。これまで「だいちの星座」では「たねがしま座」「つくば座・もりや座」「かがやき星団」「いばらきけんぽく座」「よっかい座」などの各会場にて参加者らによって人間リフレクタが試みられてきました。「だいちの星座」各作品には数多くの人達が「星」となって地上絵に描き出されています。

 私たちは、人工衛星を利用した「だいちの星座」の活動が人の社会認識を変化させる機能を備えたツールであることを、人間リフレクタ参加者らの姿が象徴しているのではないかと考えています。「だいちの星座」の撮像会場では、子供だけではなく幅広い年齢層の多くの人々が人間リフレクタとなって参加することを望み、人工衛星が地上の観測を行う可能性の高い2分程度の間、見えない人工衛星に向かって一斉にポーズをとります。人間リフレクタは、参加者らに地球と人一人を直接繋ぐような社会認識を与え、撮像後の安堵と共に参加者同士で交わされる短い言葉によって新たな社会認識が共有されていった様子が、記録映像や事後のアンケートから読み取ることができます。

 人間リフレクタの精度はまだ高いとは言えませんが、素材やポーズ、器具などを工夫して、「だいち2号」で人間そのものを観測できるレベルに高め、「だいちの星座」を地球と人一人が繋がる実感が得られるツールとして育てていきたいと思っています。 

 

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「人間リフレクタ実験」(2014年10月8日/金沢美術工芸大学グラウンド)

 

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「人間リフレクタ実験」結果

 

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「人間リフレクタ実験」にて最も電波反射の成績が良かったポーズ

 

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人間リフレクタの衣装を纏った「よっかいち座」参加者

(撮影:四日市市立博物館)

(2016年8月21日/四日市大学グラウンド/四日市こども科学セミナー)

 

 

「星」は人の生きた痕跡

作品コンセプト

 「だいちの星座」に描かれた星の多くは、地上で生きる人々が刻んだ生の痕跡です。「だいちの星座」の作品上で電波反射器によって意図的に描き出した「一等星」の周りに無数に輝く点の中には、そのもとで多くの人が生きた証(新築の家、港に運び込まれたコンテナ、採石場、材木の切出し、等)が含まれています。「だいちの星座」は「だいち2号」が撮像した人工衛星画像に記録されている多くの人々の日常を振り返る機能があると言い換えることもできます。

 人の日常は私たちに何を伝えるでしょうか。「だいちの星座」の作品上では、記録された時期が異なるある地点の形状変化が電波反射の反射を変えた様が現れます。繰り返されていると感じる日常の風景は、「だいちの星座」によってそれぞれの瞬間が異なる時間の経過であったことを明らかにします。この変化に人の生活が関わったのだとすれば、人々の生活が貴重で稀な時間であると教えてくれます。「だいちの星座」は人々の日常が決して繰り返されることのない稀な時の連続であることを伝えていると感じています。

 哲学者の三木清はその著書「構想力の論理」の中で、人の行動を促す不安な気持ちと行動の結果として現れる<形>の関係性から構想力のメカニズムを探っています。人が思い悩みながら行動するうちに様々な形を地上に生み出します。(美術作家である私を含め)あらゆる人が人工衛星という地球の外から人々の生活を眺める視点を利用可能な現代では人々が生み出す地上の形を容易に捉えることが出来ます。世界中の変化を広い視野で捉える地球観測システムは今後も様々な波長の電磁波を利用して地球上により多種多様な<差>を発見し、明らかにしていくことと思います。写真機や映画カメラがその登場から早い時期に記録装置から芸術表現の為の役割を与えられた様に、人工衛星もまた芸術表現の為の役割を引き受け始めています。

 日本の人工衛星「だいち2号」はLバンド合成レーダによる最も優れた性能を備えた地球観測システムとして知られており、世界中の研究者によって多くの分野で利用されています。「だいちの星座」の活動には、(大きな地球の中から)人ひとりが生きた生活の痕跡をすくい上げることのできる繊細な解析・記録を備えた実用衛星が不可欠です。また、宇宙科学分野の資源を積極的に平和利用してきた世界でも珍しい日本の宇宙開発の文化が「だいちの星座」を支えています。「だいちの星座」の活動は最新の地球観測システムと世界でも珍しい科学文化に支えられた稀の連続であり、その時の共有に賛同し参加した私たちの生きた痕跡そのものです。

較正器具としてのCR

電波反射器・CR

 「だいちの星座」で使用する手作りの電波反射器を製作するにあたり、合成開口レーダの較正を行うために地上に配置するコーナ・リフレクタ(以下、CR)を参考としています。「だいち2号」の較正は一辺が3m程の大型のCRが使用されることがあり、これに能動型のレーダ較正器(以下、ARC)や幾何較正器(以下、GC)を組み合わせる等して人工衛星に搭載されたセンサやその他システムの較正が行われています。大型のCRは北海道苫小牧市に設置されたものを除けば基本的に較正の機会に現地に持ち込まれ組み立てられます。「だいち2号」の較正は2014年の打ち上げ以降、関東一円の他、沖縄から北海道まで各地で実施されており、吉見総合運動公園(埼玉県)等、利便性の高い複数の公園施設等で度々実施されています。「だいち2号」の較正を行う様子を見学した際に取材した写真と合わせ、「だいち2号」の較正器具としてのCRが現場でどのように組み立てられ、使用されているかについてご紹介します。

 CRはトラックで運ばれ、3~4名ほどで組み立てられます。まず人の背丈ほどのポールを2本立てた後にこれらのポールを結ぶように水平に横棒を渡し両端を同じ高さに固定します。この部分は人工衛星に向けて開口部を持ち上げる下駄として機能します。次にCRのすべての面が交わるコーナの頂点と地面が接する部分に台座を配置します。下駄と台座に乗せるようにして平らな大きな三角形の面を取り付け、台座から下駄に渡した横棒に向かって高くなるように固定します。この時、台座から下駄に向かって作られる面の仰角を観測当日のALOS-2の条件に合わせます。CR開口部の方位角についても同様にこの時調整します。底面の固定が終われば、その上に2枚の三角形を取り付けて固定し、CRが完成します。風が吹く日はアンカーなどで固定します。較正に使用されるCRは精密な観測を目的としており歪みも無く頑丈です。

 

取材協力:アンテナ技研株式会社

 

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CRはトラックにて運びこまれます

 

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底面の仰角や方位角を合わせた後、側面の2枚を取り付けます

 

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全ての辺同士をネジで固定します

 

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完成したCR(1辺が3mの三角形型CR)

 

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GCを配置

 

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ARCを配置

 

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CRを配置

 

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もう一台の受信アンテナにて受信した観測用の電波の状況を確認・記録する機材

 

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観測が終了し、地上にて電波を受信した様子が現れたコンピュータ画面

 

手引書

電波反射器・CR

 電波反射器の製作手順を説明するためにハンドブック「だいちの星座」を作り、手引書と呼んでワークショップ等で配布してきました。この手引書の編集は2015年に金沢美術工芸大学の学生が中心となってすすめられ制作され、「だいちの星座」における電波反射器の役割や使用方法、製作手順や材料が網羅された内容となっています。

 ブックデザインは天木詩織さん(編集当時は金沢美術工芸大学 視覚デザイン専攻1年次生)で、1年生ながら情報量の多い内容を手書きの図を使ってわかりやすくまとめていただきました。制作協力として宇宙航空研究開発機構JAXA)のロゴが入り、A5判(全16ページ)にまとめられています。内容は以下の通りです。

 

・表紙

・だいちの星座プロジェクト概要

・だいちの星座プロジェクト活動紹介

・だいち2号の役割

・搭載レーダの特徴

・観測周期の説明

・観測情報の入手方法

人工衛星位置情報取得アプリケーションの設定方法

・電波反射器の作り方

・電波反射器の工作に使用する道具・材料一覧

・電波反射器の配置方法

・人間リフレクタについて

 

 手引書はたねがしま座、つくば座・もりや座、よっかいち座、いばらきけんぽく座の各説明会・ワークショップで配布されました。

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手引書の編集会議の様子

定点観測

作品コンセプト

 

 萩原朔美氏は「だいちの星座 ーたねがしま座・つくば座・もりや座ー」展会期中に実施されたシンポジウム(2015年8月/アート・スペース・キムラ ASK?)の中で、「だいちの星座」は定点観測によって浮かび上がる日常生活の中の特異性を見ようとする作品ではないかと指摘しています。私たちの活動は人工衛星によって定点観測の視点を得ており、作品中に「星」として描き出された無数の点は日常生活の中の変化そのものです。「だいちの星座」と定点観測の関係について触れたいと思います。

 地球観測衛星は(ほぼ)同じ高度と軌道から地球を観測し続け、定期的に同じエリアの画像を撮像し続けることで定点観測を行うはたらきがあります。研究者らはこれらのデータを利用して地球上の様々な変化を見つけます。高度な科学の集積と理論を具体化する工業技術によって常に正確な運用が行われる人工衛星を利用することで、現代に生きる私たちは宇宙から地球を見る定点観測の視点が得られるようになっています。日本の地球観測衛星の一つである「だいち2号」は、私たちに定点観測の視点を与えてくれます。「だいち2号」に搭載されているセンサは、自らが地上に向けて発信した電波を再び受信することで地球を観測します。その電波は雲を透過する性質を持つために、地上を観測出来る可能性が高まり定点観測を行うには好都合です。

 「だいちの星座」は人工衛星による定点観測から得られる衛星画像を芸術制作に利用します。私たちの活動は、人々の日常の中に起こる変化が実は繰り返すことのできない特異の連続であり稀な出来事であることを、宇宙からの定点観測によってヴィジュアル化し明らかにしようとする試みです。私たちは時期の異なる2つの衛星画像(撮像エリアは同一)を重ね、変化のあったところを抽出することで、新たな画像上に無数の点を描き出します。これらの点を「星」と見なすことで、同じ画像上により大きく明るく現れる電波反射器を配置した地点が「星座」を構成する1等星に位置付けられ「だいちの星座」が完成します。「だいちの星座」は、人工衛星が提供する定点観測の機能を利用して、その地域に住む人々の生活の痕跡を無数の星に見立てて可視化しています。大地に意図的に「星座」を描く活動と、その地域に住む人々がそれぞれの生活によって描き出す無数の「星」が重なることで「だいちの星座」がつくられています。

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同一エリアで撮像時期をずらした2枚の画像を重ね変化抽出を行った箇所(中央の黒色の部分)。