「星」は人の生きた痕跡

 「だいちの星座」に描かれた星の多くは、地上で生きる人々が刻んだ生の痕跡です。「だいちの星座」の作品上で電波反射器によって意図的に描き出した「一等星」の周りに無数に輝く点の中には、そのもとで多くの人が生きた証(新築の家、港に運び込まれたコンテナ、採石場、材木の切出し、等)が含まれています。「だいちの星座」は「だいち2号」が撮像した人工衛星画像に記録されている多くの人々の日常を振り返る機能があると言い換えることもできます。

 人の日常は私たちに何を伝えるでしょうか。「だいちの星座」の作品上では、記録された時期が異なるある地点の形状変化が電波反射の反射を変えた様が現れます。繰り返されていると感じる日常の風景は、「だいちの星座」によってそれぞれの瞬間が異なる時間の経過であったことを明らかにします。この変化に人の生活が関わったのだとすれば、人々の生活が貴重で稀な時間であると教えてくれます。「だいちの星座」は人々の日常が決して繰り返されることのない稀な時の連続であることを伝えていると感じています。

 哲学者の三木清はその著書「構想力の論理」の中で、人の行動を促す不安な気持ちと行動の結果として現れる<形>の関係性から構想力のメカニズムを探っています。人が思い悩みながら行動するうちに様々な形を地上に生み出します。(美術作家である私を含め)あらゆる人が人工衛星という地球の外から人々の生活を眺める視点を利用可能な現代では人々が生み出す地上の形を容易に捉えることが出来ます。世界中の変化を広い視野で捉える地球観測システムは今後も様々な波長の電磁波を利用して地球上により多種多様な<差>を発見し、明らかにしていくことと思います。写真機や映画カメラがその登場から早い時期に記録装置から芸術表現の為の役割を与えられた様に、人工衛星もまた芸術表現の為の役割を引き受け始めています。

 日本の人工衛星「だいち2号」はLバンド合成レーダによる最も優れた性能を備えた地球観測システムとして知られており、世界中の研究者によって多くの分野で利用されています。「だいちの星座」の活動には、(大きな地球の中から)人ひとりが生きた生活の痕跡をすくい上げることのできる繊細な解析・記録を備えた実用衛星が不可欠です。また、宇宙科学分野の資源を積極的に平和利用してきた世界でも珍しい日本の宇宙開発の文化が「だいちの星座」を支えています。「だいちの星座」の活動は最新の地球観測システムと世界でも珍しい科学文化に支えられた稀の連続であり、その時の共有に賛同し参加した私たちの生きた痕跡そのものです。