「写真」としての地球観測技術と芸術

「だいちの星座」は、地球を撮影する人工衛星を使い、その画像に写りこむことで巨大な地上絵を描くアートプロジェクトです。現代ではGoogleEarthやインターネットの地図サービスなどで衛星写真そのものは身近になっていますが、それらの衛星写真は利用者にとっては「知らないうちに」撮影されたもので、いつどのように撮影されたものかがあまり意識されることはありません。一方で、「だいちの星座」では衛星をより能動的に使います。衛星の撮影計画に合わせて地上で制作活動を行い、そこへ実際に衛星が飛来して撮影が行われ、参加者(アーティスト自身と、多くの市民の皆様)が「いま私たちが撮影されている!」という感覚を体験し、宇宙から私たちを見るという新しい視点を共有します。

 「だいちの星座」シンポジウム(2015年8月/アート・スペース・キムラ ASK?)で萩原朔美氏は、写真芸術の観点から「だいちの星座」は定点観測によって地上の変化を捉える活動であることを指摘しました。実は宇宙から地球を観測する技術そのものも写真芸術に端を発します。1850年代にフランスのナダール(Nadar)は気球に写真機を持ち込み、初めての航空写真を撮影しました。彼は写真家・飛行家であり、晩年には自らのスタジオを第一回印象派展(1874年)の会場として貸し出すなど美術界で活躍した人物です。一方で地球観測技術の教科書にも彼の名前は登場し、例えば「宇宙からの地球観測」(ERSDAC・編)には次のようにあります。

1858年にフランスの有名な写真家で冒険家である、フレックス・ナダール(引用者注:正しくは単にナダールと表記。本名はガスパール=フェリックス・トゥールナション/Gaspard-Félix Tournachon)は、気球によりパリの街並みを撮影し、世界で初めての航空写真の撮影に成功した。(中略)彼はパリ市内の航空写真を次々と撮影し、当時の人々に驚きを持って迎えられ、人々の都市観に大きな影響を与えた。

(関根秀真:「宇宙からの地球観測」1.3章、資源・環境観測解析センター編集/出版、2001)

このようにナダールの功績は科学技術界でも認知されているといえます。測量、資源管理、防災、環境監視など現代には無くてはならない地球観測技術の基礎が芸術家のナダールによって始められたことは、重要な示唆をもたらします。科学技術と芸術表現がその領域を拡大していくとき、両者に起こる行動には何ら違いはなく、科学技術と芸術は同じフィールドで、同じ背景や出来事を通じて発展していくものなのです。

このことを再認識させてくれるのが「だいちの星座」です。このプロジェクトは、「科学技術」と「芸術」のコラボレーションではありません。私たちがやろうとしていることは科学技術と芸術との「異文化交流」ではなく、両者のもつ共通の本質に迫ることです。ナダールの技術の延長上にある地球観測技術を用いて、ナダールの飛んだ空よりも高い宇宙から、地上で起きている変化を捉え、作品化します。そうして地球外からの新しい視点を多くの方々と共有することを目指しています。

 

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気球から写真を撮影するナダール

 

ところで、科学技術と芸術表現に共通する「写真表現技術の拡大」という功績を残したナダールですが、有名な上記の絵は「写真を芸術の高みに(気球で)上昇させるナダール」という皮肉のきいたタイトルが付けられた風刺画であり、当時の論壇からの評価を伺い知ることができます。また、街の看板が軒並み「写真(Photographie)」で埋め尽くされており、写真の流行ぶりと、それが絵画などの既存の芸術を駆逐するのではないかという当時の批評家たちの懸念も感じられます。

(大木)