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合成開口レーダで絵を描く (1)なぜ合成開口レーダか?

「だいちの星座」では、地上に巨大な星座の地上絵を描き、JAXAの衛星「だいち2号」(ALOS-2)搭載の合成開口レーダで撮影します。「合成開口レーダ」は地球観測用の装置の一種で、地上に向けて電波を発し、その電波が地上に当たって反射してきたものをまた衛星で受信し、その受信波を解析して地表の画像を得るものです。合成開口レーダで得られる画像は、誤解を恐れずに簡単に言えば、電波で撮影する特殊な衛星写真です。

「だいちの星座」プロジェクトの前身である、金沢美術工芸大学の「Satellite Art Project Kanazawa」では、光学カメラによる通常の衛星画像(光学画像)も用いていました。これは人間の目や市販のデジカメと同様に太陽を光源として地表を光(可視光線)で撮影したもので、Google Earthで閲覧できる画像もこれにあたります。しかし、これでは天候が晴れていないと雲に遮られて地表が見えない*1ため、とりわけ市民参加型の制作活動には不向きであることが分かりました。一方で合成開口レーダは雲や降雨があっても電波が透過して地上を撮影でき、天候が理由で撮影できないということがありません。安心して多くの市民の皆さんを呼び込んだ制作活動が計画できます。2006年に打上げられたJAXAの衛星「だいち」(ALOS)には合成開口レーダが搭載されており、制作活動はそれを活用したものに移行していきました。

 

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「だいち」により撮影した光学画像(左)と合成開口レーダ画像(右)。両者は同時に撮影されたものであるが*2、合成開口レーダ画像(右)では雲の下の地表も見えている。2009年10月19日撮影。

 

このように、本プロジェクトは初めから合成開口レーダありき、JAXAの衛星ありきの活動ではなく、宇宙の視点から私たちを見たいというあくまで芸術的な動機で合成開口レーダ、とりわけJAXAの衛星に行きつきました*3。結果として、目に見えない電波を使って地上を可視化するという表現上のユニークさと、それが日本の科学技術文化から生まれた衛星で可能になったという点は、芸術的な意義の補強にもなっています。

「だいち」は2011年に運用を終了しましたが、2014年に後継機の「だいち2号」(ALOS-2)が打上げられ、これに合わせて制作活動も再開されました(筆者はこの段階でJAXA側の共同研究者として本活動に加わりました)。「だいちの星座」という新たなプロジェクト名は、大地に地上絵を描くことと、使用する衛星の名を掛けて付けられています。

「だいち2号」の合成開口レーダは、実際にこれまでの「だいちの星座」の制作で、地上絵を描く手段として極めて有効に機能しています。2016年8月11日(山の日)に撮影を行った「いばらきけんぽく座」の撮影では、200名以上の市民の皆様に参加いただき、茨城県北地域の全6市町に1か所ずつ反射器を設置することで、6つの星からなる全長40kmにわたる星座を構成しました。決められた日時に、これだけ広い範囲を、一度に、かつ雲なしで撮影できる手段はほぼ合成開口レーダしかありません。実際、このとき欧州の衛星「センチネル2A」(Sentinel-2A)で光学画像も取得しましたが、被雲のため地上の様子は捉えられませんでした。

 

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「だいちの星座 ― いばらきけんぽく座」で撮影された画像。2016年8月11日撮影。右は「だいち2号」による合成開口レーダ画像。左はその約1時間前に「Sentinel-2A」が撮影した光学画像だが、被雲のため地上の様子を捉えていない。
※この合成開口レーダ画像は作品化する前のオリジナルの画像であり、過去の撮影画像との差異から地上に設置した反射器を星のように抽出する最終的な作品のグラフィックとは異なります。また、両画像は分かりやすさのため反射鏡を設置した6か所の点と市町の境界線を後から書き加えています。

 

次回に続きます。

 

(大木)

 

 *1
Google Earthの画像に雲が少ないのは、多数の衛星画像から晴れた部分だけを繋ぎ合わせて作られているため。これがGoogle Earth画像の更新がまれにしか行えず、画像の取得日も場所によってまちまちになる理由の1つ。

*2
「だいち(2006-2011年)」は、合成開口レーダと光学画像センサの両方を搭載しているためこのように同時撮影で両者を比較することが可能。「だいち2号(2014年-)」は合成開口レーダに特化した衛星であり、光学画像は取得していない。

*3
合成開口レーダを搭載した衛星は海外も保有しているが、解像度などの画像の性能の良さ、いかなる地域でも早期に撮影できる観測頻度の高さ、画像の入手のしやすさ(安価または無償)を総合するとJAXAの「だいち」シリーズが最も目的にかなっている。