合成開口レーダで絵を描く (2)合成開口レーダはどう見えるか?

前回(合成開口レーダで絵を描く (1)なぜ合成開口レーダか?)の続きです。

「だいちの星座」では、衛星「だいち2号」で地上絵を撮影しますが、電波によって撮影する合成開口レーダを用いるため、その特殊な画像の性質をよく理解し、効果的にその画像に写りこみ、地上絵を描けるようになることは「だいちの星座」の重要なプロセスでした。ここでは、合成開口レーダ画像が通常の(光学)衛星画像とどのように違うのかを美術表現に近い観点から考えるため、過去の様々な芸術作品を「だいち2号」の合成開口レーダで見てみます。

以下、合成開口レーダをSAR(Synthetic Aperture Radar)と略記します。

 

Robert Smithson(ロバート・スミッソン) “Spiral Jetty”(1970年)

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(左が「だいち」による光学衛星画像、右が「だいち2号」によるSAR画像)

ランド・アートで知られる米国の現代美術家の代表作で、湖に渦巻き状の地形が作られ、歩いて渡ることができます。SAR画像では表面の凹凸が多いところほど明るく見え、凹凸が少ないところは暗く見えます。現地産の岩石を運び込んで作られたこの作品は、凹凸が多いために、光学衛星写真と同じようにSARでもその形状を見ることができます。水面は凹凸が少ないために暗く見えます。

 

Christo and Jeanne-Claude(クリストとジャンヌ=クロード) “The Floating Piers”(2016年)

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(いずれも「だいち2号」のSAR画像。左が作品設置前、右が作品設置後)

1991年に茨城県を会場の1つとして大規模な「アンブレラ・プロジェクト」を実施したことで日本でも知られている作家ですが、その当時のSAR画像には良いものがないため、同じ作家の最近の作品を見ることにします。湖の島に渡れる道を一時的に作ったこの作品では、光学衛星写真による撮影も行われましたhttp://www.thefloatingpiers.com/fabric-installation より)。この作家は彩度の高い明瞭な色をしばしば用いており、この作品はオレンジ色でしたが、電波の強度を白黒で表すSAR画像には色はありません。よって、SAR画像に写りこむために、通常の色彩の概念は使えないことが分かります。

 

Walter de Maria(ウォルター・デ・マリア) “The Lightning Field”(1977年)

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(だいち2号のSAR画像)

これは光学衛星画像には写らないが、SAR画像には写るという興味深い例です。広大な土地にステンレス棒が等間隔に立ち並ぶこの作品は、単純に上から見たときには直径数cmの棒の断面があるにすぎず、小さすぎて現在の光学衛星の解像力では視認できません。しかし、SARでは解像度3m(標準的な観測モードの場合)の「だいち2号」であっても棒の位置に点像が写ります。これは金属棒が地面と作用し衛星からの電波を反射させているためです。このことは、電波の反射に適した素材や形のものを設置すれば、それが小さいものでもSAR画像に写りこめることを示しています。なお、この作品では、地形の起伏に関わらず棒の上端の高さが揃うように各棒の長さが調整されています。これには雷がいずれの棒にも均等な確率で落ちるようにする作家の狙いがあります。SAR画像で写っている点の明るさがまちまちなのは棒の長さの違いによる(長いほど明るい)と考えられます。

 

イサム・ノグチ「ガラスのピラミッド」(モエレ沼公園

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(いずれも「だいち2号」のSAR画像。左が西側から、右が東側からの撮影。図中の矢印等は筆者が描きこんだもの)

先のウォルター・デ・マリアの例では、個々のステンレス棒はどの方角から見ても形状が変わらない直立の棒でしたが、これは見る方角に対して形状が非対称なものをSARで見た例です。多くのSAR衛星は地球を南北に周回しながら横方向、すなわち東西どちらかの方向を撮影する(SARは原理的に衛星直下付近の観測は不可)ため、SAR画像が取得されるときは、東の上空から撮影される場合と、西の上空から撮影される場合の、大まかに2種類のケースがあります。それぞれの場合について、モエレ沼公園内のガラスのピラミッドを見ると、三角形と四角形が複合した非対称な形状であるこの建築は、西側から撮影したときにまばゆい光を放ちました。このことから、同じ物体でもSAR画像に効果的に写りこむには適切な方角があることが分かります。

 

「だいちの星座 ― かなざわ座」より「かがやき星団」(2015年)

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(いずれも「だいち2号」のSAR画像。左が制作前、右が制作時の画像)
※このSAR画像は作品化する前のオリジナルの画像であり、過去の撮影画像との差異から地上に設置した反射器を星のように抽出する最終的な作品のグラフィックとは異なります。

ここまで紹介してきた作品はSARで撮影することを意図したものではありませんが、最後に、SARで撮影することを前提に制作された「だいちの星座」の例を示します。これは、SARの画像に写りやすいコーナー反射鏡(CR)を多数(23器)設置したもので、CRの詳細な説明は他項に譲りますが、これまで説明したSARの画像の性質を生かしたものになっています。すなわち、衛星からの電波をもとの方向に反射しやすい形状や、サイズ、材質を採用しています。また、設置する方角も正しく考慮しています。設置場所も、CRが目立つように、普段は画像が暗い場所、すなわち地表の凹凸の少ない場所として、公園のグラウンドを使用しています。

このようにSAR画像の特性を知り、そこに効果的に写りこむことは、「だいちの星座」の表現手法の基本になっています。

 

(大木)